選書コメント
27歳ではじめて会社員になってひと月ほどで辞めたくなったのだけれど、そのいちばんつらい時期にこの文庫本を読んでいた。勤め先のひとつ手前の駅で電車を降りてホームのベンチで、だめだ、と思っていたあの日もバッグのなかにこの本があった。たまたまその時期に読んでいたというだけで、作中の出来事や一節に勇気づけられたみたいなことではないが、結局会社は辞めずにその後5年ほど働いた。辞めずに働いたのがよかったのかどうかはわからない。でもその曲がり角みたいなところを一緒に過ぎたこの本には恩義とか友情みたいなものを感じています。
滝口悠生
小説家。1982年東京都生まれ。2011年「楽器」で新潮新人賞を受けてデビュー。著書に『寝相』『愛と人生』『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』『死んでいない者』『茄子の輝き』『高架線』『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』『長い一日』。
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フヅクエ文庫とは
誰かにとって大切な本が、また別の誰かにとって大切な本になったらいい。さまざまな選者による、忘れがたい一冊を集めた選書シリーズです。寄せられたコメントに導かれて、思いも寄らない本との出会いをお楽しみください。
書籍の販売価格について
定価 1~499円 →販売価格 500円(税込550円)
定価 500~999円 →販売価格 1000円(税込1100円)
定価 1000~1499円 →販売価格 1500円(税込1650円)
定価 1500~1999円 →販売価格 2000円(税込2200円)